埋められた子供―サム・シェパード戯曲集 (英米秀作戯曲シリーズ)

混沌とした社会で、アメリカンドリームを成し遂げたはずの一家が近親相姦・殺人により一気に衰退の一途を辿った、いわば『悲劇』である。だが、ミラーの『セールスマンの死』同様、ラストで「死」に「生」の希望を見出した作品でもある。「リアリズム」と「神話」の融合、とも言うべきか。暗い話なのに、ところどころ笑ってしまう。Black humor好きのSam Shepardならではの作品だ。わかりにくい話が好きな人には楽しめるかも？？舞台は1970年代のアメリカ中東部。飲んだくれの何もしない一家の主人Dodgeと、現実を直視できず妄想と脳内の楽園で生きる妻Halie。７年の失踪後、舞い戻ってきた長男のTildenは、一家が農業をとっくにやめたにも関わらずどこからか野菜を持ってき続ける。次男のBradleyは事故により片足が義足である事などから曲がった人格になっており、暴力的。Halieが愛してやまなかった三男は、ハネムーン先のMotelで何者かによって殺害されたという。とにかくこの一家を取り巻く環境は暗い。夫婦仲も冷え切っている。そして、全員が精神的に病んでいる。その理由は、この閉ざされた一家に切り口を入れる役目を持つ‘外部者’の登場により明らかになる。VinceとShellyだ。Tildenの息子、Vinceが恋人のShellyを連れて祖父の家に寄ったことからストーリーが展開していく。期待していた温かい歓迎とは裏腹に、家族の誰もVinceを知らないと言う。意味不明な状況が続く中、Shellyは一人家に残され気ちがいじみた連中と過ごす。一体この家では何が起こっているのかと突き止めるとついにはDodgeがHalieとTildenの間にできた赤ちゃんを殺して庭に埋めた事を告白する。Tildenが赤ん坊を掘り返してきて、『それ』を母のところへ持っていくシーンで終わる。埋められたこどもはVinceなのである。成長して現れたのも、また‘同じ’Vinceなのである。